福島第1原子力発電所事故についての区職労声明
 はじめに、東日本大震災で被災されたみなさまに心からお見舞い申し上げます。
また、一日も早い復旧・復興にむけ、区職労は物資の支援や義援金の募金活動などに今後も全力をあげていくことを表明したいと思います。

1・ 福島原発事故の危機収束と、被災者・被害への賠償を
@  原発事故の危機収束に総力を
 福島原発事故の拡大を抑え、危機をすみやかに収束させるために、原子力安全委員会、原子炉メーカー、原子力機構、大学などの内外の専門家、関係技術者の知恵と能力の総結集をはかることが必要です。
 そのためにも、原発事故の現状について政府・東京電力・原子炉メーカーが持っている情報を全面的に開示することが必要です。それぞれの原子力施設を襲った地殻変動や津波の数値、破損の状況、政府の情報収集衛星が撮影した画像、放射能の各種ごとの線量など事故についての情報を全面的に開示することが必要です。
 また、政府が、原発事故の収束に向けて、どういう戦略でのぞみ、現段階でどういう見通しをもっているのかを、可能な範囲で国民に説明するべきです。
A  放射能汚染のデータの公表を
 放射能の拡散と汚染のデータを、政府が一元的に責任をもって国民に対して、正確に、すみやかに継続的に伝えることを求めます。データの公表にあたっては、政府の公式発表だけでなく、国民がその意味を正確に理解できるような、専門家による捕捉説明を必ず行なうことが必要です。公表したデータの説明と、国民への行動の指示が矛盾するような発表の仕方は、あらためる必要があります。正確な情報を国民に公開し、国民と共有してこそ、安易な楽観視も、過剰な危惧も抑制し、風評被害を防止することができると考えます。
B  原発事故被害の被災地に対する責任ある対応を
 原発事故被害の被災地の住民と自治体に対して、放射能の拡散と汚染のデータを全面的・継続的な提供、福島第1原発から20キロから30キロ圏の地域への責任ある対応、国として責任ある権限をもった職員の関連自治体への配置、風評被害防止と被害の全面補償、あらゆる避難者を区別せず宿泊場所の提供など手立てをとることを求めます。ヨウ素剤の周辺住民への配布、被ばく検査と除染について、政府が責任をもって行なうことが必要です。
C  原発事故被害に対する全面的賠償を
 原発事故によって、すでに一部の原乳、農産物から暫定基準値を超える放射能が検出され、政府が出荷停止を指示するなど、農家などに重大な被害をあたえています。風評被害も含めた農業・漁業被害、原発事故で非難を余儀なくされている中小商工業者の被害に対する全面的な補償と賠償を、東京電力と国の責任でおこなうことを求めます。
D   「計画停電」を見直し、大口需要者の総量規制の実施を
 社会的経済的混乱を引き起こしている「計画停電」を見直し、東京電力まかせにせず、大口需要者への総量抑制などによる節電をすすめる必要があります。
2. 原子力行政、エネルギー政策の抜本的な転換を
 福島原発の事故は、『想定を超えた』自然災害による不可抗力ではありません。福島原発事故について、国会の場や市民団体が、チリ地震級の津波がくれば冷却設備が機能しなくなり、重大事故に陥る危険が存在することが繰り返し指摘してきたにもかかわらず、東京電力側がそれを拒否してきたという事実があります。この事故は、「日本では重大事故は起きない」とい「安全神話」をふりまき、安全対策をなおざりにして原発をやみくもに推進してきたこれまでの原子力行政による人災にほかなりません。
 福島原発事故の収束のためにあらゆる知恵と能力を結集することを最優先課題としてとりくむとともに、日本の原子力行政、エネルギー政策は従来のままでよいのかを、根本的に再検討することが必要です。
@  安全優先の原子力行政への転換を
 「安全神話」と決別し、原子力の危険性を直視した原子力行政を
 日本の原子力行政の最大の問題は、「安全神話」を基礎としていることにあります。原発に関しても、政府は「苛酷事故------大量の放射性物質が放出されるような重大事故-------が起こることは日本では現実に考えられない」として、国際原子力機関(IAEA)が求める苛酷事故を想定した対策をつくることすらしてきませんでした。こんな「神話」に固執している国は、日本以外には世界のどこにもありません。
 アメリカで、1979年にスリーマイル島の原発事故が起こったとき、事故調査の最終報告書でもっとも強調されたのは、「原子力発電は安全だ」いう思い込みに最大の問題があった、これを「原子力発電は本来的に危険性の高いものである」という姿勢に切り替えなければならないという反省でした。この教訓は、いまでは世界の多くの国ぐにの共通の認識になっています。
原発総点検、原発新増設とプルトニウムの核燃料政策の中止を
 この基本的立場にたって、原子力政策の思い切った転換をはかる必要があります。国際基準に合致し、今回の震災の教訓も踏まえた、新しい安全基準をつくり、それにもとづいて全国の原発の総点検をおこなうことを求めます。
 政府が昨年策定した、14基以上の原発を新増設する無謀な計画をきっぱり中止すべきです。東海地震の想定震源域の真上に位置する浜岡原発の停止、老朽化した原発の「延命」の中止、危険きわまりない高速増殖炉「もんじゅ」、ウランよりも危険性の高いプルトニウムは入った燃料を一般の原子炉で燃やすプルサーマルなど、プルトニウム利用の核燃料サイクル政策の中止を求めます。そして、福島原発は廃炉にするべきです。
A  原子力の規制部門と推進部門の分離、強力な権限をもった規制機関の確立を
 原子力の安全確保の体制でも、日本の体制には、世界の水準からみて、重大な欠陥と立ち遅れがあります。わが国が批准している『原子力の安全に関する条約』では、原子力の安全のための規制機関は、原子力発電を推進する行政機関と、明確に分離することを義務付けています。イギリスでは保険安全執行部ZA(HSE)が、ドイツでは環境省が、アメリカでは独立した行政機関として3900人の常勤スタッフを擁する原子力規制委員会(NRC)が原子力の安全のための規制機関としての仕事にあたっています。ところが、日本では、規制機関とされる原子力安全・保安院が、推進機関である経済産業省の一部門となっています。独立した規制機関が存在しないという日本の体制は、国際条約に違反するものであるとともに、この深刻な制度的欠陥は、今回の事故においても重大な弊害をもたらしています。
 こうした原子力行政の制度的欠陥を、ただちに改める必要があります。日本でも、アメリカの原子力規制委員会(NRC)のような、推進部門から独立した強力な権限と体制をもった原子力の規制機関を確立することを強く求めます。
3、 自然エネルギー、低エネルギーへの戦略的転換を
@  原発依存から自然エネルギーへの転換を
 原発依存のエネルギー政策から、自然エネルギー(再生可能なエネルギー)への戦略的な転換を決断する必要があります。
 ドイツでは、発電量の16%を再生可能エネルギーでまかなっています。これは福島第1原発1号機の25基分に相当します。さらに、2020年には発電量の30%以上、2050年には80%の目標をかかげ、長期的な再生可能エネルギー計画を立てています。原発依存のエネルギー政策をから脱却し、太陽光・熱・風力・水力・地熱・波力・潮力・バイオマスなど再生可能エネルギーへの転換を決断し、大胆な目標と、それを実行するプランを策定すべきです。
A  低エネルギー社会への転換
 同時に、社会のありかたして「大量生産、大量消費、大量廃棄」、いわゆる「24時間型社会」という社会のあり方を、根本的に見直し、低エネルギー社会への転換をはかる必要があります。異常な長時間労働を是正し、夜間労働を規制して、人間らしい労働と生活を保障することは、その重要な内容のひとつと言えます。
4、 原発で働く労働者の労働環境の改善と労働条件の向上、安全体制の確立を
@  原発で働く労働者の労働環境を抜本的に改善し、「安全第一」を徹底することを求めます。
A  原子力産業で働く労働者が正確で迅速な情報にもとづいて、自らの安全を確保できる行動がとれるよう、徹底することを求めます。
 区職労は、福島原発事故を受けて、現状を以上のように考えています。皆さんのご意見も伺い、今後も原発問題を考えていくこととしています。
 最後に、今回の震災と原発事故を教訓として、エネルギー政策が根本的に転換され文字通り「安全最優先」の社会が実現されていくことを期待するとともに、区職労としてできることを結集し、新しい社会実現のために全力をあげていくことを表明します。

  2011年4月26日

千代田区職員労働組合