〔見解〕「幼稚園・保育所の一元化」問題について
 どの子どもにもゆきとどいた保育・教育を受ける権利保障の拡充を求めて
政府の「規制緩和政策」のもとで、「幼稚園・保育所の一元化」問題が急浮上し、保育関係者に問うこともなく子ども不在の保育制度改革がすすめられようとしています。全国保育団体連絡会は、どの子どもにもゆきとどいた保育と教育を受ける権利保障の拡充を求める立場から、以下、見解を述べるものです。

1.幼稚園と保育所の現状について
 学校教育施設としての幼稚園と児童福祉施設としての保育所は、戦後60年近い歴史を刻むなかで、それぞれ独自の機能を拡充してきました。今では4,5歳児のほとんどが幼稚園ないしは保育所に通っており、幼児教育は準義務教育的状況にまで到達しています。
 しかし、少子化がすすむなかで3歳以上の幼児が通う幼稚園は、園数・園児数ともに減少が続いています。一方で通常保育時間終了後の「預かり保育」を実施する園は年々増えつづけ、幼稚園の保育所化が進んでいます。幼稚園の預かり保育は、給食や午睡など充分な条件整備もないまま、保育所の待機児童解消として利用され、子どもや職員に負担を強いるものになっています。
 産休明けからの乳幼児が通う保育所は、少子化で子ども数が減少しているにもかかわらず都市部を中心に入所希望者が増え、待機児問題が深刻化しています。数年前より定員の弾力化策による定員を超えての詰め込み保育が促進され、子どもたちの保育条件の悪化と、事故発生の危険さえ心配される状況がひろがっています。
 国民は、どの子どもにもゆきとどいた保育・教育を受ける権利を保障するために、このような状況にある幼稚園と保育所が、それぞれが持っている役割と機能を充分に発揮できるよう、国の予算増額をはじめ、行政の手厚い配慮など施策の抜本的な改善を強く求めています。

2.政府の「幼稚園・保育所の一元化」提案の問題点について
 ところが、このたび、政府の諮問機関から提起された幼稚園と保育所の一元化問題は、主に財政負担と運営の効率化の側面から提起されたものであり、子ども不在、国民不在の論議であると言わざるを得ません。
 地方分権改革推進会議は、「事務・事業のあり方に関する意見―自主・自立の地域社会をめざしてー」(2002年10月30日)において、幼稚園と保育所は「地域によってはほとんど均質化しているので施設としての幼稚園と保育所、制度としての幼稚園教育と保育は、地域の判断で一元化できるような方向で見直すべき」とし、「保育所運営費負担金・施設整備費負担金の一般財源化等も検討すべき」、と財源問題を提言しました。さらに、総合規制改革会議が決定した「規制改革推進のためのアクションプラン」(2003年2月17日)では、幼稚園・保育所について、(1)保育所調理室の設置義務の撤廃、(2)幼稚園教諭と保育士の資格・配置基準の統一、(3)保育に欠ける子どものみならず誰でも入所可能にする入所対象の統一を実施するとし、まず、全国規模で調理室設置義務廃止を実施し、特区で様々な制度統一を断行してみるべきとの考え方を示しています。
 これらは、幼稚園、保育所がそれぞれ果たしてきた機能や、子どもの保育条件、保育現場の実態や父母の切実な願いなどにはいっさいふれておらず、政府の一方的な考え方によるものと言えます。実際、法律の根幹に関わる問題であり、厚生労働省・文部科学省からは反対の意見が出されています。
 このような方針は、国自身が作ってきた「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」など保育・幼児教育の内容をも無視しています。幼保一元化を口実に国の公的責任を後退させ、保育制度を解体していくものであり、絶対に認めることはできません。

3.保育制度改革は国民的論議で
 現在、幼稚園では176万人余の幼児が、保育所では188万人余の乳幼児が保育を受けています。幼稚園、保育所は、地域住民の生活にとって必要不可欠な公共的施設なのです。そのように重要な施設のあり方を論議するのであれば、各施設の関係者、父母、住民などが参加する場を確保すべきです。ごく少数の諮問委員などが国民不在のまま財政効率や規制緩和の側面だけを強調した論議をすすめることは、国の将来に禍根を残すものと言わざるを得ません。
 幼稚園、保育所の制度をめぐっては、子どもの権利保障を第一義的に考え、国民的な論議を時間をかけて行うべきですが、当面、現行の幼稚園行政と保育行政における不十分な点についての実質的な改善が急務です。幼稚園と保育所の保育の長時間化、低年齢化など、近年の変化に即応した幼稚園の設置基準と保育所の最低基準の抜本的改善、幼稚園にあっては生活機能の具体的保障、保育所にあっては教育機能を発揮するための制度の確立、父母負担の軽減、保育者・職員の生活保障、労働保障のための制度拡充が必要です。
 未来の希望である乳幼児には、教育基本法、学校教育法、児童福祉法、子どもの権利条約の理念に基づいて「子どもの利益が最大限尊重される」手厚い配慮のもとに、ゆきとどいた保育・教育の保障の拡充を求めるものです。

2003年3月18日
全国保育団体連絡会