「市場化テスト」に対する見解と態度
2005年5月25日
東京自治労連中央執行委員会
1. 「市場化テスト」に関する若干の経過
 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(骨太の方針)2004」では、「官でなければできない業務の範囲を明確にするための『市場化テスト』や民間開放に関する数値目標の設定など、民間開放推進のための制度を早期に導入すること。平成16年度中に制度設計を行うとともに平成17年度の試行的導入に向けた検討を進めること。『市場化テスト』の導入についての調査・研究を行う(規制改革・民間開放推進3カ年計画2004年3月の前倒し)」と述べている。規制改革を一層推進するためと称して、2004年4月に内閣総理大臣の諮問に応じ、民間有識者13名で構成される規制改革・民間開放推進会議(以下「推進会議」と略)が内閣府に設置された。議長には引き続きオリックスグループ宮内CEOが納まり、財界、学者、シンクタンク代表などで構成された。
 第1回本会議では、「『官から民へ』を加速させるための横断的な取組として、『規制改革・民間開放推進3カ年計画(平成16年3月閣議決定)に記載されている『市場化テスト』、『数値目標』を中心に検討を行い、あわせて民間開放を促進するための制度改革についても議論していく」と述べられた。これは、「推進会議」が「市場化テスト」という新たなツールによりより急激な民間開放を企んでいることをあからさまに示していることに他ならない。
 昨年8月3日発表された「中間まとめ」では、「『市場化テスト』を2006年度から全面導入すべき」とした。12月には「第1次答申」を発表し、モデル事業の05年度実施に向けて具体化の検討を開始した。さらに本年3月に「規制改革・民間開放推進会議3カ年計画(改定)」が閣議決定された。

2. 市場化テストとは
 「市場化テスト」とは、公共サービスについて官と民が競争入札を行い、質と価格の優れた方が落札するという仕組みのことである。その分野は、
1)給付・徴収
 国税・地方税などの徴収・年金業務
2)施設整備・管理
 庁舎・宿舎、情報通信システム
3)登録
 車庫証明、登記、公証、特許登録、自動車登録
4)統計・調査・製造
 統計業務、貨幣・紙幣の製造
5)検査・検定
 宅建免許審査、動植物の検疫、電波監視
6)その他
 物損事故処理、職業紹介、航空管制
 等が検討対象となっている。
 「推進会議」は昨年6月30日、「公共サービス民間開放の手段としての『市場化テスト』の導入」と題したシンポジウムを開催した。そこでは、「市場化テスト」の和訳を「官民競争入札」とした上で、「官業を民間に開放するための横断的な手法であり、官が独占的に提供している行政サービスを民間事業者との競争市場に晒すことと定義。具体的には、@対等な競争条件が確保される前提の下で A官と民の間で競争入札を実施し B質とコストの両面で優れた事業者を選定することと説明している。そして、多くの先進国(米、英、豪等)実施済みであるとし、国や地方自治体の行政改革に大きな成果をあげられると述べている。
 また、過去にも類似の行政改革の手法があったとして、
1) 郵政三事業等、公社・公団の「民営化」
2) 国や自治体事業の部分的な「業務委託」
3) 国や自治体による公共調達の市場開放
4) PFI制度を活用した公的施設の民間運営
5) 「公設民営」による福祉施設の運営
等を例示している。
 そして、「官民の競争と協調」として、「国の公共サービスの提供と、それを公務員によって実施することの違いを明確にする必要がある」と述べ、公務員が公共サービスを提供しなくてもよいと言わんばかりである。つまり、官は「民間開放」という政策提起だけ行い、サービスの提供は民間が行う、という虫のよい論理を展開している。

3. 外国における市場化テストの事例
(1) アメリカ……郡や市町村の30%が官民競争を採用、そのうち2/3の業務が民間への移管・委託。2001年にブッシュ政権で「政府にしかできない業務に限定」が連邦政府の施策として確立。各省庁が、政府固有の業務と民間でも可能な商業的な業務とに自己判定。事業の公表、入札、契約、評価のプロセスを法律で明記。
 具体的な事例として、航空管制、上下水道、廃棄物処理、飛行場運営、緊急患者輸送、公園管理、厚生施設、刑務所、犯罪捜査支援を紹介している。
(2) イギリス……地方政府対象に強制競争入札制度を実施。特定サービスを自治体が提供する場合、自治体部局も企業と同様入札者として参加。1999年に「ベストバリュー制度(サービスのコストと品質の両方に配慮した基準)に」転換したが、官民競争の考え方は維持。1992〜1994年に市場化テスト対象の官庁業務において半分強が削減され、民間に移管された。
 国・地方の事例として、刑務所、清掃、廃棄物収集、処理を上げている。
(3) オーストラリア……連邦政府による「国家競争政策改革法」により、民間企業を対象とした競争法を地方政府や公的企業のすべての事業にも適用。具体的な実施は州政府に委任。「官」であることの競争上の優位性を明確に否定(同じサービス内容であれば対等)。
 国・地方の事例としては、旅券発行、失業者就労支援、清掃・廃棄物処理などを挙げている。

4. 「推進会議」が「市場化テスト」の実施に向けて考えている課題
(1) 国の執行部門、外局、地方部局、独立行政法人等、幅広い対象事業を設定すること。
(2) 対象となる官業の直接・間接のコスト、事業の運営全般に関する包括的な情報を開示すること。
(3) 民間提案等を積極的に活用し、トップダウンの意思決定をどう構築するか。
(4) 民間事業を阻害する諸規制の緩和や官民間の競争条件の均一化等、法的枠組みを形成すること。
(5) 官民競争条件を確保するための法的手続きを透明化すること。
(6) 事後評価制度・監視機能を整備すること。

5. 今後の具体的なスケジュール
(1) 2004年度……「市場化テスト」のガイドラインの策定、官民間競争条件の監視機能、各省のモデル事業の選定等
(2) 2005年度……上記モデルの試行的導入とその評価基準の策定
(3) 2006年度……制度の全面的な導入と民間開放の比率について長期的な数値目標設定

6. 自治体における市場化テスト導入の動向
 自治体における市場化テストの動向としてまず挙げなければならないのは、「市場化テスト推進協議会」(以下「推進協議会」)が発足したことである。
東京都内の自治体としては、足立区と三鷹市が参画をしている。
本年4月4日に開催された設立総会では、足立区の区民部長(前政策経営部長)が「『経営理念としての協働』…一流の成果を追求するコラボレーション…」と題して講演を行っている。また三鷹市が市立東台保育園の公設民営化と市政窓口業務の株式会社委託について報告をしている。
他に千代田区が独自の立場で市場化テストについての調査費を2005年度予算に計上するなど、導入の動きを強めている。
また大阪府は2月22日、行政サービスの担い手を官民競争入札で決める「市場化テスト」の導入に向け、ガイドライン素案を発表した。2005年度中に対象事業を絞り込み、06年度にも導入するとしている。

7. 東京自治労連の見解と態度
政府及び自治体の事業は、国民の基本的人権を保障するために国及び自治体が実施責任を持って進められてきた。ところが、「市場化テスト」はこれを営利企業のビジネスチャンスの道具とし、国民の人権を弱肉強食の市場に投げ出すものである.
このことは住民サービスの低下をもたらす危険に絶えずさらされるとともに、住民参加や議会による監督が後退し、個人情報の保護についても保障はないと言わざるを得ない。また、談合や「口利き」などがはびこり、不正や腐敗、癒着の温床となる危険も高まる。
また、対象事業を民間が落札した場合、正規職員の処遇については配置転換や民間事業者への移転、臨時・非常勤職員には解雇という重大な問題が発生する。雇用は労働者にとって重大な問題であり、一方的な結論を押し付けることは断じて許されない。
今、政府・財界は国民と国・自治体の関係を行政サービスの供給者と受給者という経済的関係に特化し,応益負担やバウチャー方式などの導入を進めようとしている。これでは住民とともに地域をつくることは困難になる。住民と自治体は対立関係ではなく、共同の関係を築いていくことが重要である。自治労連は、「こんな地域と日本をつくりたい」を合言葉に、仕事を通じて、また運動で民主的な自治体建設を目指している。
東京自治労連は、小泉構造改革に基づく自治体業務の民営化・民間開放には反対してきたが、質の高い公共サービスを確立し、公務公共サービス労働者の雇用を守る立場から「第1次答申」とその中に盛り込まれている「市場化テスト」に反対する。
 「市場化テスト」では、国においては来年度モデル事業として、ハローワーク・社会保険関連事業が試行予定である。しかし、これらは国民に身近な公共サービスであり、モデル事業に指定することが無原則な民間開放に結びつく危険性が高い。
東京自治労連は、「市場化テスト」の問題点などについて解明をすすめるとともに、住民との共同により広汎な世論と運動の構築に全力を上げる。