査定賃金制度導入・級格付け廃止・特別区職員互助組合廃止提案に対する職員からの手紙(区長と助役へ)
 日頃の区政運営におけるトップマネージメントにご苦労されていることに、敬意を表します。
さて、区長会より、査定賃金制度(査定昇給と勤勉手当への成績率)導入、級格付け廃止、特別区職員互助組合廃止提案がなされ、12月20日を期限に交渉を詰めることになっています。
最終盤の交渉にあたって、貴職に対し、下記の通り手紙にしましたので、私たちの声をお聞き下さい。



1、 査定賃金制度を導入する場合、人事評価制度が不可欠ですが、その人事評価制度の提案がありません。査定賃金制度とセットになっている人事評価制度について、各区事項だからという理由では、提案に不備があります。査定賃金制度が提案されている以上、人事評価制度は各区任せの議論ではなく、統一交渉で行うべきです。そうでなければ提案に不備があるということで、査定賃金制度の交渉には応じられないことを強く申し上げておきます。
 私たちは、査定賃金制度の導入には基本的には反対ですが、人事評価制度の提案があれば、査定賃金制度と人事評価制度の確立に向けた議論については、統一交渉の場で行う用意があることを申し上げておきます。

2、 人事評価制度について、@毎年職員一人一人を相対評価方式により5段階で評価するやり方は、「普通にまじめに勤務していても定期昇給がもらえなくなること」、「普通の評価でも勤勉手当はマイナスになること」、A所属長のいない保育園や児童館などの出先職場について、職員の勤務を普段見ていないで適正な評価ができるのか、Bそもそも公務職場における成果・成績とは何か明確でない、何によって評価されるのか明らかにされていない、などの大きな問題があります。
 人事評価制度が信頼されるものでない限り、評価される側の職員にとって、どのように評価されるか分からないので、戦々恐々となります。しかも、普通に働いていて、今までなかった延伸措置となったら、やりきれない思いを持つでしょうし、所属長への不信感が増し、仕事へのモチベーションが下がることになりかねません。さらに、評価される者とする者の間で紛争が多発するでしょう。
 人事評価制度については、統一交渉で、23区共通の土台となる、絶対評価制度、本人開示制度、苦情処理制度、評定者を複数以上とすること、評定者の訓練を行うこと、評定者が評定する人数の上限を設けること、などを設けた人事評価制度案を出されるよう求めます。

3、 私たちは、客観的、公正な評価による一定の成績主義は否定するものではありません。しかし、相対評価による成績主義に基づく給与制度が導入されると、管理職の方も含めて職員は、「自分の評価だけを気にして利己的・自己中心的に仕事をするようになり、仕事のコツとかツボとかの技術伝承はなくなり、大胆にものを言う職員もいなくなり、文字通り職場の活力が停滞する」と最近では民間企業でも見直され、マスコミや学識経験者でも成果主義の弊害を指摘しています。
 チームワークを基本としている特別区の職場に、このような制度が安易に導入されてよいものでしょうか。利己的・自己中心的職員が増えれば、職員間の信頼関係が崩れ、ギスギスした人間関係となり、文字通りチームワークはなくなります。そして区民に対する思いやり・やさしさという気配りの余裕もなくなってしまうのではないでしょうか。 
 ぜひ、以上のように指摘させていただいたことをお考えいただき、成果・成績主義に基づく査定賃金制度提案を見直すよう求めます。

4、 「虚妄の成果主義・日本型年功制復活のススメ」、東京大学教授の高橋伸夫さんの著書があります。ちなみに、高橋さんは、現体制を支持する人です。
 その中から、成果・成績主義の問題点の指摘を拾ってみますと、次のような内容が浮かびあがります。
社内評価の良し悪しのはっきりした人以外のまじめに普通に働いている人は、そもそも細かく評価に差をつける必要はない。たまたま、よい仕事に巡り合い、いい仕事をする人もいれば、そうでない人もいる。
そもそも、営業部門以外の部署で個人の業績や成果を定義することは至難の業であろう。
単純な「賃金による動機づけ」は科学的根拠のない迷信である。望ましい動機づけの話しと望ましい賃金制度の話しは本来は、別次元の話しである。
仕事の内容による動機づけこそが、内発的動機づけの理論の指し示すところである。つまり、人はにんじんをぶら下げられてもいい仕事をするものではないということである。
賃金制度は、従業員が生活の不安を感じることなく、仕事に打ち込めるような環境をつくり出すために設計されるべきものである。「日本型年功制」はそのために生まれてきたのである。
成果主義とは、差をつけるのに金ばかりかかるが、あまり効果の上がらないシステムなのである。
成果主義も年俸制も底を流れるものは「切る論理」である。
 以上のように、学者の科学的な検証の結果もあります。
公務の職場に行き過ぎた成果・成績主義型の査定賃金制度はなじまないと考えます。導入すれば、まちがいなく、職員の職務遂行へのモチベーションを高めるのはごく一部にとどまり、多くの職員の士気の低下を招くものとなることは明らかです。公務の職場がそういうことになれば住民サービスは大きく低下するでしょう。
今の特別区の人事・任用給与制度でも勤務成績を適切に反映させられ、「がんばった者が報われる制度」となっていると考えます。これ以上の成果・成績主義型賃金制度の強化がなぜ必要なのでしょうか。そこのところをよく考えていただき、査定賃金制度の提案はぜひ見直してほしいということです。また、管理職へ適用する内容と一般職員への適用は当然、責任の度合いやモチベーションの持ち方が違いますので、当然違う制度となることもお考えください。

5、 区長会の提案している勤勉手当への成績率の導入について、全職員一律拠出方式のため、普通の成績をとってもマイナスとなり、職員のモチベーションを下げることになります。つまり、常識に欠ける制度となっていますので、提案を見直すよう求めます。

6、 級格付け基準は、経験豊かで業務上の知識を持つベテラン職員の処遇として位置づけ、職員のモチベーションを高める役割を果たしています。提案の通り、任用上の職務級の上位級の格付け者に対し、昇給停止措置などを実施すれば、人数の多い当該職員のモチベーションは確実に下がり、区政運営に重大な支障をきたすことになります。
 級格付け制度は、任用給与制度の重要な柱をなすもので、その部分だけを廃止するのには大きな問題があります。級格付け廃止を提案するならば、任用給与制度の全体を改善し、見直すことが筋です。そうでなければ、私たちの廃止提案に対する考え方は変わりませんので、協議は進まないことを申し上げておきます。

7、 区長会の査定賃金制度の導入提案のように、例月給や勤勉手当が各区で運用されれば、各区の給与水準が大きく違ってきます。これでは給与等の23区共通基準での運用をベースにした連合人事委員会による官民比較方式での勧告が無意味になり、統一交渉システムが崩壊します。
 それでよいのか、という問題です。私たちは、給与水準の大きな違いを生じさせないよう、統一交渉で協議するよう求めます。

8、 交渉に臨む姿勢について申し上げます。交渉・協議に臨む双方の姿勢は、相手の主張を理解し、互譲の精神で対応することが、協議を進める秘訣となっています。
 従って、12月20日を交渉の最終期限とせず、また、一方的な見切り発車はせず、十分な協議期間を取るよう強く要望します。

9、 最後に、特別区職員互助組合のあり方についてです。残念ながら、区長会は、特別区職員互助組合について、公費負担を二年後にゼロにする、事実上廃止とする提案を行いました。今後は、法律に基づいた職員の福利厚生についての使用者責任は、各区が果たすとしていますが、千代田区の使用者責任がどう果たされるのか明らかにされないまま、廃止に応ずるわけにはいきません。また、千代田区単独では福利厚生事業ができないものもあり、これまでのように使用者責任は果たせないのではないでしょうか。
 スケールメリットが必要な、各区単独ではできない保険事業だけではなく、宿泊助成事業などを残し、そのための公費負担を復活し、使用者責任を果たしていただくようよう強く求めます。
 以上、切実な職員の声ですので、お考え直しいただくようお願いいたします。