06特別区人事委員会勧告を批判
国の指導に屈服し正確な勧告を放棄
自主性のない人事委員会はいらない


 特別区人事委員会は、12日、東京都より早く勧告を行いました。その内容は、すでに区職労ニュースや特区連新聞で報告しているとおりですが、その問題点の核心に迫ります。

@比較対象企業規模を急に変え、長年続けてきたルールを変えたことが問題

比較対象企業規模について、これまでの100人以上から50人以上に引き下げ、民間給与を低く算定した結果、区職員給与が平均で0・41%、1788円上回るとしてマイナス勧告を行いました。
東京都の勧告は、マイナス0・31%、1357円で、特別区は東京都よりも大きなマイナスとなりました。これまでのようなやり方で調査すれば、月例給で2189円、0・5%、一時金で0・05月のプラス勧告となるものでした。小規模企業は労働組合もなく、賃金が低く抑えられているのが現状で、まさに公務員賃金の水準を引き下げるための目的で行ったことは明白です。そして、比較企業規模を変えたことは、まさに国・人事院に追随したことで、人事委員会の自主性のかけらもありません。

A春闘結果がプラス結果となっているのにマイナス勧告となっている問題

今年の春闘は、自動車や電機など主要な会社がベースアップや一時金の引き上げを行っています。
なぜ、こうした結果が反映されないのでしょうか。調査企業は、何と国・人事院が選んで、人事委員会が調査を行うようになっており、自主的には決められない仕組みになっています。
23区内では、例えばトヨタの本社などが調査対象企業に入っていないなど驚くべきものとなっています。

B従来のやり方と今回小規模企業を調査に入れたこととの比較で、なぜ、約4000円もの大きな格差が出ているのか疑問

特別区においては、749事業所のうち、38事業所が100人未満となっています。調査事業所の比率では5%にすぎません。100人未満の事業所が占める割合が低いのに、なぜ、約4000円も引き下げられる結果になったのかです。
人事委員会の説明は、特別区職員は年齢が高く、4月に全員昇給している影響があると言っていますが、それだけでは納得がいくものではありません。
また、一時金についても05年冬と06年夏の合計では、1・05%から3・88%も増加しています。100人未満の事業所の占める割合が低いのに、今回の据え置き勧告は納得できるものではありません。

C国と同じ傾向の勧告となっていることが大きな疑問

23区内の事業所と地方の事業所の賃金水準を比べた場合、23区内が高いことは一般的です。また、厚生労働省の賃金センサスを用いて、特別区行(一)職員の平均勤続年数で都内民間従業員との給与水準を比較してみると、都内民間水準と特別区職員の給与水準では、民間の方が大幅に高いことが分かります。企業規模10人以上を含む全産業との比較でも所定内給与、年間給与額ともに特別区職員を民間企業が上回っています。
しかし、勧告は、ほとんど、国・人事院と同じ傾向となっており、都内の実態は反映されていないといえます。これは、調査対象企業を賃金の比較的低いものを選んでいる、その対象人員や調査の詳細を明らかにしていないことから、数字の操作をしていることとしか言いようがありません。

D地域手当に矛盾

今回、地域手当について、国と同様に18%まで引き上げるとしています。
なぜ、18%になるのか、そもそも特別区に地域手当という制度そのものが当てはまるのかが問題です。組合側は、地域手当制度は特別区には不合理として、本給繰入れを要求していますが、人事委員会は、その矛盾に応えていません。
また、地域手当を平成22年度には18%とし、それに合わせて給料表水準を引き下げていくとしていますが、最終的にどれくらい引き下げるか明らかにしていません。国は、平均で、4・8%、中高齢層では7%も引き下げています。

E地域手当を引き上げ本給をマイナスにすることは、退職手当、年金給付額の引き下げに連動する

地域手当を引き上げ、給料表の水準を引き下げることは、退職手当、年金給付額の一方的な引き下げは、勤務条件の重大な変更です。こうしたことを勧告することは、一方的な措置であり、労働基本権を制約する代償機関としての役割、責任を放棄しています。

F人事委員会の所管でない退職手当について勧告されている

退職手当について、常々、人事委員会の所管ではないと人事委員会は説明してきました。しかし、国と同様の検討を行う必要があるとしています。国は、在職期間中の職務に応じた「貢献度」を定め、「貢献度」に応じて「調整額」を支給するというものです。
国に比べて主任主事および現業職員が多い職員構成の特別区は、大きく退職手当水準が引き下げられることになります。仮に、本給水準が切り下げられれば、ダブルパンチで退職手当の減額となる大問題です。

G一時金の算定基礎が相変わらず改善されていない

民間企業の一時金の算定基礎は、基本給にさまざまな手当が含まれていますが、特別区は、給料月額に地域手当と扶養手当の三つだけです。算定基礎を民間並みにするだけで、4・7月の支給が可能になります。民間準拠といいながらなぜ改善しないのでしょうか。
また、企業規模1000人以上では、4・8月で特別区と0・35月も開きがあります。 人事委員会は、公務員の賃金水準を押え込むのが役目ではありません。職員の賃金改善にどう役割を果たすかです。

H国を上げての総人件費削減に乗った勧告

2006年7月に閣議決定された「骨太方針2006」では、2011年度の国の財源不足を16・5兆円と仮定した上で、2010年初頭のプライマリーバランスの確保を目標に掲げ、公務員人件費における2・6兆円の削減をはじめ、社会保障の抜本改悪などでおおよそ14・3兆円もの歳出削減目標を打ち出しました。その上で、残りの不足分を歳入面でカバーするとして、消費税引き上げなどによる国民への過大な負担押し付けを迫っています。
ベアゼロ勧告となった今年の人事院勧告について財務省は、国家公務員だけで940億円、地方に波及すれば年額3千億円以上の削減効果があるとしましたが、この発表が示すとおり、人事院勧告は、正面から「人件費削減」をねらった勧告であり、「骨太方針2006」に基づく政府・財界の「政治的意図」にそった勧告となっています。2・6兆円もの人件費削減に向けて「骨太方針2006」では、「経済成長に伴う民間賃金の上昇による公務員賃金の抑え込みを図る」として「更なる改革」を決定し、各自治体当局や各人事委員会に実施を迫っています。今年の人事委員会勧告での比較企業規模の見直しや地域手当の拡大と給料表額の引き下げなどは、まさに政府方針どおりの勧告内容となっています。
人事委員会が国・人事院に追随し、労働基本権の代償としての勧告制度の否定と、職員の利益保護の役割を投げ捨てる基本的姿勢を示しただけでなく、「骨太方針2006」に沿った「総人件費削減」の旗振り役として、政府・財界の進める大増税・社会保障改悪を国民に押し付ける役割を担っていることを明らかにしています。