第三次長期総合計画「基本構想案」に対する区職労見解
「千代田新世紀構想」は区民を幸せにできるか
2001年10月
  千代田区職労執行委員会

区職労は、第三次長期総合計画「基本構想案」(千代田新世紀構想)について、「区職労としての意見」を8月に申し入れました。しかしながら、一部の修正があったものの「区民が主人公」という視点が基本的に欠けており、「基本構想」自体のおおもとは変わっていません。そこで区職労は、この「基本構想」に対して、次の見解を発表するものです。


1、 「基本構想」の基本方針に関わって

この「基本構想」は、@「千代田市」をめざし、新しい自治のあり方を発信すること、A100万人を活力とする自治体「千代田」をつくることという二つの柱を基本方針に掲げています。

(1) 「千代田市」構想は、強者の論理
 「千代田市」構想については、都区制度改革の不十分さである課税権、事務権限の制約を克服し、21世紀に向けた新しい仕組みづくりを20年後の将来にめざすとしています。その理由として、「大都市の一体性、統一性」の名のもとに画一的なサービスを行う時代は終わったことをあげ、「自己決定」、「自己責任」を果たす自治体をめざすとしています。
 しかし、清掃工場の問題、上下水道や消防の仕事をとってみても、千代田区が都や近隣の区からタモトを分かって独自の道を進むには、現実的に難しい状況であり、この「千代田市」構想はアドバルーンにすぎないという声も聞こえてきますが、この考え方の背景は、23区の歴史的な経緯を無視し財政的に優位に立ち、「自治体間競争」を勝ち抜こうとする強者の論理があるといえます。そこには自治体は住民福祉を徹底し、住民の暮らしを守るという視点が欠けています。他の区と協力し、足並みをそろえていっそうの自治権拡充をめざし住民福祉を徹底することこそまともな方向ではないでしょうか。
 確かに千代田区は、都区財政調整の下で税収額が約2500億円もあるのに、区への還元額がわずか約1%・25億円しかないことは不合理といえます。東京都が吸い上げて調整する仕組みそのものが地方分権を進めている中で問題があるといえますが、23区が住民のための自治を地域性(23区の税収にかたよりがあること等)において分かち合って発展させてきた歴史的経緯を無視することにも問題があるのではないでしょうか。
 また、国をあげて自治体の合併が推進されている中、千代田区を含めて合併を進めることには賛成できません。自治体どうしの合併によっては住民を基礎的自治体から遠ざけ、住民サービスの低下をもたらすことにつながる恐れがあるからです。この点で現石川区政は千代田区が自立した上での合併には含みをもたせています。全国的に市町村合併の嵐が吹き荒れる中、23区の合併に関して民間研究機関は、財界の意向にそって23区を六つの区に合併する案を出し、その流れにそい、かつ国の意向も受けて東京都も合併案を打ち出そうとしています。こうした住民サービスの低下など弊害をもたらす合併論には要注意です。その街の将来は住民自身が決めるという民主主義の徹底こそ必要でしょう。

(2) 「新しい自治」の追求の内実は区民に「痛み」を押しつける「構造改革」
 「他の自治体をリードする新しい自治のあり方の発信」という「新しい自治」の追求は、よくみると「厳しい財政状況」、「ニーズの多様化」、「選択と負担」を前面に押し出し、区民には負担増、行政責任は後退をさせる仕組みづくりを進めるものとなっています。
 このことは、9月議会の区長招集挨拶で「これからの区政は、まさに挑戦・変革・創造の区政であり、時には痛みが伴うこともある・・・・」とふれていることからも明らかです。この点では国の小泉流の「構造改革」イコール住民福祉よりも企業の自由を保障する政治への転換をめざすやり方と瓜二つといえます。

(3) 企業を前面に押し出し「区民福祉の向上」を削除
 「千代田区に住み、働き、学び、集う100万人の企業」に対し、区政と地域社会への関心を呼びさまし、連帯感を共有して街づくりに取り組むことの必要性を提起しています。
 このこと自体はこれまでの千代田区の街づくりの基本になっていたことであり、改めて強調したものといえます。
 しかし、「企業を対象にした行財政運営を行う」という記述は、これまでにない内容で区長の行財政運営の姿勢がよく表れており、自治体とは誰のために政治を行うのかの根本が問われるものとなっています。
 自治体は住民のために福祉、教育をはじめとした仕事を行うものであり、自治体が財政出動を行い特定の企業に奉仕することには大きな問題があります。こうした政治はむしろ20世紀型の政治であり、区長のいう「21世紀の新しい地方自治システム」をつくる方向とは逆行しているのではないでしょうか。
 むしろ企業には、社会的に地域の一員としての責任を求め、かつ地域社会へその利潤を還元させることこそ必要ではないでしょうか。
 企業も税金を納めているから当然という考え方があるようですが、一見正当に見えても自治体は住民のための住民福祉を行う任務を負うことから見れば間違いは明らかです。
 この背景には、今はやりの新自由主義の考え方があります。新自由主義とは、「企業が自由に活動する」ことによって人々の幸福や社会の繁栄が実現できるという思想です。企業は、たくさんの負担と規制のもとで活動している、企業の活力が回復しないために経済不況も回復できないから、負担や規制を取り払い、企業の自由をもう一回回復しようとするものです。
 歴史的にみると企業の自由勝手な活動は、住民の幸福を実現するどころか、失業、貧困、公害など、社会に深刻な問題を発生させました。だから、政府や自治体が適正な負担と規制をかけてきたのです。21世紀は、新自由主義の考え方=「構造改革」ではなく、住民のための福祉国家をめざすことこそが求められているのではないでしょうか。
 そうした観点でこの「基本構想」をみると、「企業を対象にした行財政運営を行う」とはまさに企業活動を支援する財政出動であり、区民福祉の向上をめざす方向とは逆行しています。

(4) 欠落している憲法の地方自治の理念
 この「基本構想」全体を通してみても区民一人一人の基本的人権を守ること、憲法を暮らしに生かすこと、平和と民主主義を守るという記述が欠落しています。特に自治体の責務が「住民福祉の向上をめざす」ことにあるのに一言もふれられていないのは、「千代田新世紀構想は誰のための基本構想か」と批判されても仕方ないでしょうし、いくら「区民の目線で考え行動する区政」といっても空言といえるでしょう。
 地方自治法第1条の2では、「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」と規定しています。この憲法の地方自治の理念を千代田に合わせたかたちで記述することこそが21世紀の千代田区の住民を幸せに導けるのではないでしょうか。

2、 「千代田新世紀構想」の特徴と問題点

(1) 千代田区の「将来像」は大企業のビルだけがそびえ、人の住みにくい街に
 「江戸時代からの歴史と伝統を引き継ぎ千代田区の魅力を高め、独自性・独創性ある施策を展開していくことで、だれもが住みたいと思える新たな都心の魅力を創出していく」と将来像を語っています。
 しかし、「基本構想」の基本方針に示されたことに基づく施策を行うことになれば、千代田区の「将来像」は大企業のビルだけが大きくそびえ、人の住みにくい街になってしまうことは目に見えています。また、民間企業にたよった住宅建設では普通の所得では住めない住宅やワンルームマンションばかりが増えることになります。
 そうした「構造改革」の方向ではなく、今住んでいる人が安心して住み続けられ、高齢者、子育て世代が移り住んできたいと思う、安心して住める街にすること、そのための良質な住宅供給こそが重要であり、そのことから人口増につながり、「都心の魅力」を発揮できる道です。
 千代田区の将来像を考える上で、「高齢者がいつまでも住める」「区民が安心して住み続けられる」「子育てがゆとりでできる」という「真の福祉都市」づくりこそ人口増対策にとっての重要なキーワードです。

(2) 誰のためのまちづくりか、「公共事業見直し」世論に挑戦
 「都市機能の適切な更新を進めるとともに、情報インフラ等の整備を支援・誘導し、日本の政治・経済・文化の中心としての機能強化を図る」と言っていますが、このことはまさに区民生活とは直接関係しない公共事業を、正面きってすすめることに他なりません。
 「都心再生に向けた提言」では「光ファイバーの敷設、デジタルケーブルテレビ等新情報ツールの普及など情報都市化の実現」、「広域幹線道路、公共交通などのインフラの整備」について国に要望しており、大企業、または多国籍企業にとっての魅力ある都心づくりといえます。
 今は、「公共事業見直し」こそ多数の世論です。区民にとって無駄な開発は行わず、大規模開発は財政上からも実施しないことが重要です。

(3) 自治体間競争に勝つことを区民は望むか
 「地方公共団体は、今後は、多様と分権を基調とする、自治体間競争の時代を迎えます」と分析し、その競争に自治体が勝たねばならないことを「基本構想」は打ち出しています。
 その理由は、「千代田区は、交通、文化、教育、医療、情報などの機能が高水準で整備され、利便性の高いまちですが、隣接区の都市基盤や交通網のさらなる整備により、千代田区の持つ都市機能や職住近接などの優位性は、相対的な低下が懸念される状況にあります」と都心の魅力低下の不安を語っています。
 このことについて、「千代田区政策会議」の中で三菱地所会長などの企業・財界人が期待を表明していることからみても、企業・財界には喜ばれるが、自治体間競争に勝つことなど区民が望むものではないでしょう。

(4) いっそうの大企業のための規制緩和で大規模開発へ
 「住宅と業務、商業活動の共存・調和をめざし、地域コミュニティの維持・継承に配慮しつつ」と言っていますが、「地域特性や開発規模に応じて、適切な開発手法を用いた計画的なまちづくりを推進します」と20世紀型の再開発を再びよみがえらせようとしています。
 このことは、「都心再生に向けての提言」をみるともっとはっきりします。大企業が規制緩和を受けて開発しやすいように、「開発特区制度の創設」、「隔地での容積率の移転制度確立」、「全国一律規制の見直し」などを国に求めています。
 いっそうの大企業のための規制緩和で、千代田区の住環境は破壊され、いままで何とか千代田に愛着をもって住んでいた区民も追い出され、地域コミュニティがさらに衰退することは目に見えています。

(5) 「負担と選択」、「自己責任」で福祉サービスが後退
 「負担と選択」の考え方は、第二次臨時行政調査会の答申で登場しました。この考え方は、国と地方自治体の行政水準は一定のレベルに達したという評価のもとに、財政支出を減らすために、サービスメニューをいろいろ揃えて「選択」をさせるかわりに「負担」を住民に押しつけるものです。
 「だれもが適正な負担のもとで、必要なサービスを自由に選択できることが求められています」と言っていますが、「適正な負担」ができず、必要なサービスを受けられない区民が存在します。介護保険制度の実態が如実に表しています。こうした区民の生活を誰が守るのでしょうか。
 さらに「福祉の仕組み」づくりを言っていますが、サービス供給は国の福祉構造改革の流れを進め、行政が行うことをやめて公的責任を放棄するものとなっています。この方向では区は福祉分野で何をやるかといえば、福祉の単なる「仕組みづくり」を行うだけで、直接のサービスから手を引き、民間のサービス供給を適当にみているだけのものとなります。

(6) 「民間との役割分担」で自治体の責任放棄へ
 「民間との役割分担を明確にする」と言っていますが、いつも民間と行政との線引きをどこに置くか明確に語られたことはありません。役割分担を明確にすると言いつつ、「厳しい財政状況」、「コスト論」を前面に出した事務事業の民間委託を打ち出し、行政の責任を後退させています。たとえば、介護保険が導入されて、サービス提供は民間企業に任せるようになってから、特養ホームの待機者数を行政が掌握できなくなっているような大きな問題が出ています。
 また、「民間との役割分担」を進めることは、民間企業が参入しやすいように、自治体が上乗せしていた職員配置基準などを引き下げたり、民間施設の職員待遇を確保するために設けていた「公私格差是正事業」を東京都が廃止したことにより、全体として福祉水準を大きく切り下げるものとなっています。

(7) 職員の成績主義強化は行政運営にマイナス
 「強い使命感と高い意欲を持った職員を育成し」と言っていますが、そのやり方が問題です。国がすすめるようなありきたりの成績主義強化・業績評価では職員の育成に失敗するでしょう。成績主義強化・業績評価をすすめることは、区民に目が向かず、上ばかり気にする職員をつくり出し、行政運営にとってマイナスをもたらします。
 職員の育成では、何よりも所属長がリーダシップを発揮して手本を示すことが必要であり、かつ職場で自由に意見が言える議論の保障や合意のプロセスが大切にされる民主的な職場づくりが必要です。また、職員の関心のある昇任、昇格、昇給の面では、最も公平でなければなりません。
 また、常に区政が進む方向を職員が理解できるように情報を提供し、また、差別がなく、男女平等が貫かれ、セクハラなどおきない職場づくりも必要です。

3、 住民福祉の徹底する千代田区を

(1) くらしと営業、人権を守るルールをつくることが急務
 長期的な不景気に対し、大企業救済ではなく、区民の暮らしと営業を守ることが重要です。また、大規模公共事業や大規模開発から区民の住環境と住む権利を守ることこそが、区民が住み続けられる条件といえます。
 そして、社会的弱者を大切にしたやさしい区政をつくるために、高齢者・障害者の人権、生存権、居住権の保障を宣言し、そのための施策を進めることが必要です。

(2) 「住民福祉」を徹底する区政を
 地方自治法では、自治体は「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」と規定しています。
 今、千代田区が住民の生活を守ろうとするには、新自由主義的な「負担と選択」を区民に求める方向ではなく、国には「構造改革」をやめ「福祉国家」をつくるよう求め、区のレベルでは「住民福祉」を徹底することです。

(3) 憲法を生かし、平和を守る区政を
 地方自治法では、自治体の役割は住民福祉の機関と位置づけています。この憲法の地方自治の理念を千代田に合わせ、憲法を暮らしに生かすこと、平和と民主主義を守る決意を示すことが住民の幸せにつながります。

(4) 勤労者の意見も反映する区政へ
 「100万人のコミュニティの輪が広がるまち」づくりをすすめるのには賛成です。そのための街づくりには関係者の意見をよく聞いて進める必要があり、特に、今まで軽んじられてきた勤労者の意見も聞くべきです。しかし、大企業を前面に出した行財政運営は、公共行政論からも問題です。

(5) 情報公開と住民参加を進める区政を
 住民参加の様々なシステムを本格的につくるべきです。また、情報公開の徹底も必要です。このことは、地方分権を進めていくことにもつながります。たとえば、区民や学識経験者を入れた懇談会や審議会だけではなく、重要課題では、十分な情報を提供し区民主体となった課題の検討会などを起こすことも一つの方法です。
 「地方自治とは地域の住民が自分たちの暮らしを守るために、自分で組織し、自分で運営していくもの」と蜷川元京都府知事が語った言葉がありますが、そのために行政は、住民参加と情報公開のシステムづくりを強力に進める必要があるのです。                                         
以上。