2002年3月予算特別委員会の当局答弁の問題点
2002年4月
千代田区職労執行委員会

1、 300人削減に関して「行政計画に関わる事項なので管理運営事項である」との答弁
(職員課長)

 労働条件に関わる事項はすべて交渉事項です。
 管理・運営事項と勤務条件は密接な関係をもっています。例えば、労働者の解雇、配転は、人事権の行使であり、当局側にとってみれば管理・運営事項であっても、労働者側にとっては重要な勤務条件の変更です。
 定数問題についても、当局の定数の定め方いかんでは、労働者側の勤務の密度に直接影響を与えることがあり、勤務条件の変更にあたります。
 地公法55条3項の規定は、管理・運営事項であればすべて交渉の対象となりえないというのではなく、それが労働条件に関連する限りは団体交渉の対象となると解釈すべきです。

2、 「(民間業者の調理員とした場合には、区が指揮監督することはできません)と書いてありますが、そういうことはございません。当然委託した調理員に対して、区の栄養士等が指示いたします」との答弁(児童課長)

 民間業者の調理員は区と直接雇用契約がありませんので、区が民間業者の調理員に対して直接指揮監督できないことはいうまでもありません。
 請負契約上で、区の栄養士が指示することと、指揮監督することは別の問題であり、栄養士が指示することをもって指揮監督するのと同じだと言う理屈は成り立ちません。また、栄養士等と言って、園長を考えているようですが、園長が無理矢理現場で指揮監督しようとしても委託業者の調理員に「従えません」と言われればそれで終わりであり、いくら区が責任を持つといっても、調理技術の向上や衛生管理はもっぱら業者任せになってしまいます。

 今回の給食調理業務の民間委託は、「請負」契約です。「請負」のためには、委託を受けた業者が、職安法施行規則4条により、以下の4要件のすべてを満たす必要があります。
(1号)委託業者は、作業の完成について、事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであることとされていますが、施設の衛生管理等の責任が当局に残ることから、1号の要件を欠きます。

(2号)委託業者は、作業に従事する労働者を指揮監督するものであることとされていますが、給食調理員は、区の職員である栄養士の決定する献立と詳細な指示に従って、区から提供された食材を使って調理をするものですから、2号要件も欠きます。

(3号)委託業者は、作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであることとされています。
(4号)委託業者は、自ら提供する機械、設備、器材もしくはその作業に必要な材料、資材を使用し、または企画、もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働を提供するものではないこととされていますが、給食調理設備、器材等はすべて行政財産であり、当該業者が提供するのは単なる労働力だけですから、4号要件も満たしません。さらに、調理業務は、「企画を必要とする作業」にも「専門的な技術・経験を必要とする作業」にもあたりませんから、4号要件を満たしません。

3、 民間委託が行政責任を放棄するとの指摘に対し、「一般的に区の行政責任を放棄するというものとは考えていない」との答弁(計画担当課長)

 地方自治法は、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康を保持すること」と定め、自治体の公共性、役割にふれています。この観点からみれば、地方自治体は、住民の生命、財産、健康、福祉などに関する公的保障の責任を果たし、かつその水準を常に向上させていくよう努めなければなりません。
 また、「公共性」には、
@  地域住民の発達を保障する。つまり地域住民がそこの地域での生活を維持し、さらに 向上させるものである。
A その発達を保障するには、条件整備、つまりインフラ保障が必要である。
B 住民と公務労働者とのコミュニケーション的自治保障が必要である。つまり自治体職員に対し、住民は意見具申をすることを権利として保障すること。
の三つの基準があげられます。
 従って、委託契約の中に、区の指導監督を盛り込むというだけで区の行政責任が果たされるものではありません。ちなみに保育園調理の委託契約の中には、指導監督条項は入っていません。

4、 保育士の専門性は約12年の経験がいるということについて、「資格をもっていることは保育ができることですので、対応できます」との答弁(職員課長)

 サービスの質が変わらないのであれば、民間委託でよいとの主張がありますが、公共サービスの質の点で問題があります。
 公務労働の専門性については、その獲得のために長期にわたる雇用が前提です。たとえば、保育士の専門性は大づかみにみても、約12年間の経験が必要です。なぜなら、ゼロ歳の乳児から就学前の児童まで年齢別の6年間の保育は、少なく見積もってもそれぞれの各年齢ごとに2回、つまり合計12年間の保育経験を必要とします。これは、小学校教師が一人前になるには、各学年担任をそれぞれおよそ2年間試行錯誤のうちに12年間経験しなければならないことと同じです。
 保育、教育、介護といった対人社会サービス労働は、非定型的労働であるために、その専門性は、実際の現場をふんだ体験・経験が必ず必要とされ、従って長期雇用が保障されなければなりません。
 民間業者の短期アルバイト型雇用では、この専門性、サービスの質を確保することは難しいでしょう。

5、 「現在でも、例えば今直営でやっている調理の場合でも、何か不満があった場合には、当然園長にお話するということになりますので、それは委託になっても直営の場合でも同じでございます」との答弁(児童課長)

 保育園の給食調理業務だけを委託した場合には、給食に不満があれば、保護者は当然に園長に言うことになります。しかし、園長が直接指揮監督できる区職員に指示をするのと、直接指揮監督できない委託調理員に指示するのとでは自ずと効果に差がでるでしょう。
 また、保育園まるごと民間委託された場合、不満があったら住民は、まず、他の保育所を選ぶことになるでしょう。ダイエーがいやならジャスコを選ぶというたぐいの選択権の行使です。
 これが公立直営の場合、住民は保育時間・条件・内容に注文をつけ、自治体の保育行政そのものに参加することになります。このことは、自治体の住民自治原則にかなった道です。だからこそ、住民自治と言う原則を発展させる上からも、安易に民間委託を進めてはならないといえます。

6、 「調理部門だけ委託されますが、その結果は同等以上になると確信しております」との答弁(保健福祉部長)

4項に述べた公共サービスの質の問題、業者の衛生管理など、委託結果が同等以上になるかは疑問といえます。

7、 「何回か検討会を進め、それから業者の選定をする中で試食会なども開く中で、積極的に参加していただいておりますので、一応の理解はいただいているというふうなことで私どもは進めていきたいと思っております」、「もう当然大方の理解は得られているものというふうなことで、私どもは進めております」との答弁(児童課長)

 何回かの説明会や検討会で保護者の大方の理解を得ていると言っていますが、何を根拠に答弁しているのでしょうか。1月に保護者が自主的にとったアンケート結果(78世帯中69世帯回収、回収率88.5%)によれば、4月実施に反対の保護者は55.2%、区の説明会が不十分と答えた保護者は、56.5%である事実を無視しており、当局側の一方的な決めつけでしかありません。このことについては、保護者側から抗議し、撤回を求めるべきでしょう。

8、 「保育士の中には異論がある方もいらっしゃいますが、調理の方は大方賛成していただいております」との答弁(児童課長)

 これも、ごく一部の調理員が賛成している意見をもって、調理員が大方賛成しているといっているのは明らかに間違いです。保育園分会と区職労は、何回も調理員の集会をもって調理員の意見聞きながら、調理の委託問題に対処してきました。そうしたなかで調理員の大方が委託に賛成と言ったことは一度もありません。民間委託でもよいと表明している調理員は、保育園分会が把握しているところでは一人です。
 議会と言う場での公式答弁であるので、答弁は撤回すべきです。

 以上の区職労の主張に対し、4月26日、政策経営部長が「予算特別委員会でのやりとりの中の一部の表現について、お互いの間に認識の違いが生じたことは、遺憾でありました。今後とも、職員組合とは、誠意をもって対応していきます」という内容の回答を寄せたが、区職労は、納得しなかった。