事業部制導入に関わる問題点の指摘について
2002年8月
千代田区職労執行委員会

 区当局は、平成15年度から事業部制を実施する方向で準備を進めています。この問題については、「はじめに事業部制導入ありき」で、導入準備が進められています。職場では、事業部制が導入されると、どう仕事や職場が変わるのかといった不安と疑問が出されています。そこで、区職労は現時点での問題点について指摘します。また、事業部制移行を前にした平成15年度組織改正の検討及び予算編成、事務事業評価の試行が各部で行われています。こうした組織改正及び予算編成、事務事業評価が事業部制移行と関わっていますので、以下の内容をお読みいただき、職場での検討に大いに活用してください。
 区職労は、みなさんのご意見や当局の考える事業部制の全体像が明らかになり次第、事業部制に対する対応案を提起し、必要な交渉を行っていく予定です。

1, 千代田区の事業部制導入について
(1) 事業部制導入が先にありきで、トップの意向として導入が進められているが、「事業部制とは何なのか」、「事業部制の導入の是非」、「事業部制と自治体について」など、そもそも論からよく議論する必要があると考える。
 職場での議論を満足に保障しないやり方では区民のための自治体を築くことは不可能である。

(2) 「自治体に事業部制がなじむのかどうか」とういう問題を十分検討することが重要である。「事業部とは、製品別、地域別、顧客別に編成された利益責任制をもつ経営単位のことで、企業内経営として事業部長に包括的な裁量権が与えられている」と現代用語の基礎知識では説明されており、利益追求を目的とする民間企業でとられている組織形態である。
 そもそも自治体は営利を目的とするものではなく、「住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持する」ための団体であると地方自治法第2条第3項で規定している。
 こうした観点を踏まえた議論が必要である。今からでも遅くはないので、実施年度を延期することを含め、職員の間で十分議論し、区民の意見も聞くことが重要と考える。

2, 事業部制についての千代田区当局の提案について
 区当局は、事業部長が実施することとして、以下の内容をあげている。
(1) 事業部長は、予算執行と部予算編成枠内での予算編成を行う。特定財源確保努力による収入増実績、創意工夫による決算剰余金の捻出実績、施策や事務事業の成果については、事業部予算編成枠に反映させる。
(2) 事業部長は、横断的課題に迅速・的確に対応できる組織、効率的で柔軟な組織をめざして、事業部内の組織整備を行う。
(3) 事業部長は、職員一人ひとりの資質の向上を図り、能力を最大限に活かすとともに、組織全体として最大の効果をあげるよう、部内の人事配置等を行うとして、総括係長までの異動、随時異動、応援派遣の実施、部間異動候補者の部間異動、総括係長・係長・主任主事選考合格者の決定、特別昇給の決定、現員管理・部内職員の育成・評価することとしている。
 現時点では、以上の内容が明らかにされているが、事業部制のイメージや具体的な事業部の明示・構成、事業部制の運営方針、事業部ごとの調整、事業部制導入のメリットなど、その全貌を明らかにしていない。明らかにした上で、組織整備などを議論する必要がある。

3, 千代田区における事業部制導入についての問題意識
(1) 「事業部制導入」が先にありきではないか。
 事業部制導入の是非と併せて、事業部制が千代田区で必要な十分な理由が説明されなければならない。
(2) 事業部制の導入にあたって、現在の組織と事業部になった場合の違いについて、また事業部制のねらいと効果について、さらに事業部制導入の全貌を明らかにして討議に付すべきである。
(3) 事業部とは具体的にどこをさすのか。
 事業部を具体的に明示して議論すべきである。例えば、政策経営部や教育委員会は事業部となり得るのか否か。予算編成にあたっての依命通達では、政策経営部を除く現行の部を事業部としているが、それはすでに決定事項か。品川区では、当初提案に教育委員会を事業部としていたが、実施段階でははずした経緯がある。
(4) 人事関係を部長に権限委譲するというが、人事任用給与制度に通じたスタッフが部ごとにそろえられるのか問題がある。全体で1000人体制とい う少ない職員数をめざす千代田区にとって、人事関係の取り扱い扱いを部に分散するのは、部間でばらつきが出てしまい、公平性、客観制の観点から問題がでてくると考えられる。1000人体制の中で事業部間を3年から5年単位で人事異動することからみると、部によって昇任選考・特別昇給の結果にばらつきが出ることが予測されることから、対象者の不公平感はつのるものと推測される。
(5) 事業部ごとに人事関係を実施するとなると、区職労や分会との労使交渉が必然となる。事業部長が細部にわたる労使交渉に耐えられるか疑問である。
 ともすると不当労働行為が頻発しかねない状態が起こりうる状態が想起される。
(6) 昇任選考の合格者の決定について、全庁的な公平性をどう担保するのか。
 事業部制になれば部間でばらつきが出て、昇任・昇給の公平性の確保は難しいと考えられる。また、選考の合格基準を明確にしなければ問題はさらに深刻になる。さらに、事業部での昇任選考になれば、情報公開の観点から本人開示が特に必須となる。
(7) 課長補佐の名称使用については、統一交渉の結果、使用することができることになっているが、労使協議で合意を得ないと使用できないものである。
 使用するということであれば、具体的に必要な課を明らかにして交渉すべきである。区職労は、一部を除いてはこれまでの総括係長の名称で支障ないと考えている。また、課長補佐への名称変更は、6級職のあり方問題を整理・再確認する必要があるものである。
(8) 昇任選考、特別昇給の実施にあたっては、これまで区職労と協議してきたが、全体的な交渉と事業部長との交渉をどう振り分けするのか、明らかにすべきである。
(9) 事業部制との関わりで昇任選考の基準等を変更するなら十分な時間をかけて事前協議すべきである。
(10) 昇任選考や特別昇給の実施を事業部長に権限委譲するねらいは、事業部間を競わせるねらいがあるものと思われる。つまり、業績で評価し、昇任選考、特別昇給の枠に差をもたせるねらいがあると思われる。そうなると事業部の業績を評価しなければならなくなる。品川区では業績評価を行い事業部間の競い合いを事業部制の柱にしている。そこで問題になるのは、事業部間の評価の基準は何かということである。
(11) 品川区が特別昇給のみを権限委譲するのに対し、千代田区は、昇任選考の合格者の決定まで権限を委譲することになっている。品川区が昇任選考の権限委譲をはずしたのは、部単位での実施は難しいと判断したからと思われる。
(12) 事業部制の運営体制及び調整はどうするのか。区政全体の運営方針、事業部の経営及び相互調整はどこでやるのか。新たな調整会議が必要となるであろう。品川区では、事業部経営会議を設置している。

4, 15年度の組織整備及び予算編成との関わりについて
(1) 組織整備について
@  グループ制とはどういうことか、そのイメージを明らかにすべきである。
A  組織整備にあたって管理職ポスト及び職員数削減は大きな問題である。
 事務量に応じた職員数を配置すべきことは当然である。
B  7月31日付けの助役依命通達の中では、事業部を確定しているが、未だ事業部の全体像が明らかにされているとは報告を受けていない。物事が決まっていないものが先に一人歩きしていると言わざるを得ない。
(2) 予算編成にあたって
 区は、7月31日付けの助役の依命通達「平成15年度予算の編成について」で事業部制導入を踏まえて予算編成するよう求めている。
 このことは、事業部制の全体像を明らかにしないまま、事業部制導入を既定のものとして進めており、物事を進める上で、また、職場民主主義の観点から重大問題と言える。
 事業部制導入について、職場の理解と納得がないままに平成15年度予算編成などが進められていることに驚きを覚えるものである。職場の理解と納得がないままに、事業部制に移行しても事業部制の目的は達せられず、区政運営に混乱をもたらすだけであるといえる。

5, 事業部制と行政評価システムについて
(1) 千代田区行政評価システムについて
  区は、2002年3月に「千代田区行政評価システム報告書」を出した。これは、日本能率協会総合研究所に委託したものである。
 この行政評価は、旧自治省が推進を図り、全国の自治体に広がりつつあるものである。しかし、導入に伴う混乱や行政評価に対する様々な疑問も提起されている。
 行政評価には、事務事業評価と政策評価、施策評価があり、これらすべての総合評価をし、自治体の運営に活かすものとされている。今回、千代田区は、事務事業評価のみ(試行)を行うものとしている。
 本来の行政評価は、「行政システムの再構築」にあるとされているが、自治体における行政評価に取り組む意識は、「行政改革の推進」にあるようだ。行政評価を事務事業の見直し(削減、縮小)や歳出削減の手段として見る場合が多いようで、また行政評価が職員の意識改革の手段として、事務事業の成果に目を向けさせる手段として導入される場合も多くあるようである。
 千代田区も行政評価の導入にあたっては、「行革の推進」の意図が強いと思われる。
(2) 事業部制と「行政評価システム」の関わりでは、各事業部の業績評価を行い、その評価結果を予算、人員配分、昇任選考、特別昇給の実施枠等に反映させることにより、各事業部間での競い合いを生み出そうとしている。
 こうした「行政評価システム」の利用の方向は、本来の筋からはずれていると言わざるを得ない。

6, 品川区での事業部制の実施について
(1) 導入状況
 品川区は、平成13年度から事業部制を導入している。事業部の構成は、区民生活・コミュニティ分野、保健・高齢分野、福祉分野、環境・清掃分野、まちづくり分野の五つの事業部である。政策経営分野と教育分野は事業部となっていない。
 各事業部への権限委譲については、次のようになっている。

人事関係
@  定数管理(再雇用含む)
事業部長と人事担当部長の協議を踏まえ、事業部単位で定数枠を決定。
部内配分は部長権限とする。
A  一般職員人事異動
定期異動
 事業部長が部内異動原案を作成し、人事担当部長へ提示。人事担当部長の調 整を経て決定。人事異動については、係長、主査以下の異動となっている。総括係長は、総務部の所管になっている。
随時異動
 事業部長が決定(決定後、人事担当部長に報告)
 新たな事務事業の発生対応、事務量増、年度途中退職などによる業務に重大 な影響が生じる場合、随時異動ができるようになっている。随時異動については、年度途中で異動し、そのままの配置となっており、調整は、4月1日 の定期異動となっている。
随時応援派遣制度
 同一部内での他課への応援派遣
B  特別昇給
業績評価等の結果を踏まえ、事業部ごとに特別昇給枠を付与。
事業部長が付与された範囲内で部内調整の上、特昇者を選定し人事担当部長に報告。特別昇給の枠配分による実施は15年度からとなっている。この枠は、事業部ごとの業績評価結果で競わせて枠を決めることになっている。
C  臨時職員
事業部長が各課からの需要数を踏まえ、雇用の可否を決定。
人事課から候補者名簿の提示を受け選考し、人事担当部長に報告。
財政関係
@  予算編成段階
経常経費及び一定の臨時政策経費について、一般財源ベースで編成枠を付与する。事業部は、その枠内で自主的に調整することができる。(人件費、扶助費、公債費を除く)
各事業部長は、事務事業評価等により事業部枠予算案を調整する。
A  予算執行段階
予算執行計画、現行は、各部局の長が作成し、企画部長を経て区長に提出し、承認を受けているが、新たに、各事業部長がその責任において必要な検討を行い、予算執行計画を作成するものとする。
時間外等勤務手当の執行管理は予算内で各事業部が管理する。予算編成において決定した時間外等勤務手当予算額の範囲内で、各事業部、各課が自主的に管理する。(財政課による時間数査定は行わない)
予算流用・配分替。予算の執行上やむを得ない事由がある場合、100万円以内の流用は、各事業部長の権限と責任で行えるものとする。
執行委任。執行委任にかかる企画部長への事前協議を廃止し、各事業部の判断により決定する。
 各事業部では、与えられた一般財源の枠内で工夫を凝らした編成を行い、その結果生じた歳出削減効果を各部の独自の財源として政策経費に充当するとしている。
事業部制のねらいと効果については、
@  総合的な政策判断、横断的な課題への機動的な対応。
 政策・事業分野別に大くくり化することにより、各分野における総合的な政策判断や横断的課題への機動的な対応を可能にする。
A  状況変化への弾力的な対応。
 施策内容の変更や規模の見直しに際して、部内調整を基本に人員、予算等を効率的に運用する。
B  権限配分の均衡化、管理部門のスリム化。
 一定の権限委譲を通して各事業部の自立性を高めることにより、権限配分の均衡化、管理部門のスリム化を図る。
C  業績評価と組織間の競い合い。
 各事業部の業績評価を行い、その評価結果を予算、人員の配分等に反映させることにより、各事業部間での競い合いを生み出す。
D  事務処理の効率化、省力化。
 定型的・類型的な庶務・管理事務を各事業部単位で集約することにより事務 処理の効率化、省力化を図る。なお、併せて庁内ランを整備、活用することにより、なおいっそう迅速で効率的な事務処理体制の実現をめざす。
 事業部ごとの施策展開、総合調整については、区長以下四役と事業部長で構成された「政策経営会議」を設置し行っている。
(2) 導入前後にでている意見・問題点
@  財政の権限が委譲されたが、各事業部とも内部努力といって予算を残して、次期の目玉事業をつくるようにしむけられている。つまり、事務事業評価の低い事業を切り捨てる結果となっている。いかに早く新規施策を実施するかにばかり目を奪われている。さらに足場が固まらないうちに事業が動いている感じがあり、現場が苦しくなっているとの批判がある。
A  財政部門だけでなく組織全体が財源の状況に注目し、同時に特定財源確保の努力を行いながら予算編成を進めていくことで、各部が区政運営全体に責任感をもつようになったとの意見がある。
B  係長が主に通常業務の他に事務事業評価をつくっているので、大変な業務量となっている。
C  事業部を競わせるとしているが、仕事の内容が全く違う分野で何を競わせるのか明確でない。
D  事業部制のねらいはつまるところ職員の意識改革ではないかと言われている。

 以上、(1)、(2)で述べたように品川区では実施に入ったところで、試行錯誤しているところである。また、品川区では、導入にあたって、事業部のイメージ、運営方針などを紹介した冊子等をつくり、職場の理解と納得をつくろうと試みている。
 これから導入する千代田区では大いに学ぶところが多い。

7, 労使の事前協議にあたって
 事業部制の導入とそれにリンクした業績評価や昇任選考の実施などの権限委譲については、十分に時間をかけた労使協議の保障が必要である。また、労使協議にあたっては、昇任選考や人事異動の変更などを早めに提案し、協議すべきである。                                                 
以上。