事業部制に対する区職労見解
2002年9月
千代田区職労執行委員会

 区職労は、事業部制に対する職場での討議を補おうと、8月はじめに「事業部制導入に関わる問題点の指摘について」を発表しました。その後、区当局に対し、事業部制の全体像を明らかにして職場討議を促進するよう求めました。しかし、事業部制の全体像は明らかにされないまま、事業部制に基づく予算編成等が進行しつつあります。
 こうした事態を踏まえて、区当局の事業部制導入に対する問題点を指摘し、区職労の考え方を示します。みなさんのご意見をお寄せ下さい。

1、 事業部制導入の問題点

(1) 行政効率化をめざすための道具としての導入は明らか
本来の目的は「分権化」のはず
 区当局は、事業部制導入の意図を「行政効率化をめざすためのもの」と明確にしています。しかし、事業部制そのもののねらいは、単に効率化をめざすものではなく、その本質は、大きな管理単位の「分権化」です。このことから言えば、区当局の導入意図は事業部制導入の目的からはずれたものと言わざるを得ません。
 また、この「分権化」については、事業部長にある程度の権限委譲されるものの、トップダウンの構造は温存されたままです。これでは、実質的な「分権化」にはならないといえます。

(2) 民間企業は事業部制の解体・再編の流れに
 事業部制は、製品別、地域別に事業部門を設けて、各事業部が製造から販売まで一貫して行う組織形態です。それぞれが業績に対して責任を持ち、制限付きだが、経営権もあるというもので、多くの企業が導入している仕組みです。 しかし、企業は、@業務の重複や弱体質の事業部が強い事業部に依存してしまうケースがあること、A新規事業の参入や人事面などの決定権まで与えられていないことで、市場の変化にいち早く対応するには限界が生じるということで、事業部制を解体・再編しようとする流れになっています。
 民間企業の組織形態である事業部制そのものを自治体に持ち込むこと自体無理があるものといえます。そういう流れにある事業部制について、十分な議論もなしに導入することは、問題です。

(3) 戦略の観点、区民サービスの点から事業部制導入は検討されたか
 組織は戦略の観点から見直されるべきです。さて自治体の戦略とは、何をさすのか。それは、「基本構想」と「基本計画」の中身に裏打ちされた区民サービスになりますが、その観点から事業部制導入が検討されたのかどうかです。
 残念ながら、その観点で検討された形跡はみえません。先に事業部制導入がありきで、民間企業の事業部制の考えをそのまま持ち込もうとしています。
 区は各事業部長が、区民に責任を負う専門会社の経営者として、効率的な行政サービスの提供をめざすとし、職員は営業マンとなることを望んでいます。しかし、このことは、効率の名のもとに必要とされる区民サービスまでも切り捨てるものとなることが予測され、自治体の本質が覆される事態になりかねません。

(4) 事業部間の競争から生まれるものは、区民の視点が遠のくこと
 区は、自治体間の競争といい、区の内部では、事業部間の競争、さらに職員を営業マンにみたてて競争させることをもくろんでいます。
 自治体間競争では、区長自ら、目新しい施策を打ち出し、目立とうとしていますが、現場では、十分な検討がないまま見切り発車しているために苦しくなっている状況があります。
 新たに事業部間の競争をさせようとしています。まだ制度として確立していない行政評価制度(事務事業評価など)を導入し、事業部の業績により、競争をあおります。
 さらに職員間競争では、ついていけない職員、迎合しない職員に無能というレッテルをはり、上司やトップに迎合する職員には昇任選考や特別昇給など人事任用制度を非民主的に運用しようとしています。
 こうした自治体に関わる「競争」から生まれるものは、より良い行政ではなく、上を向く職員ばかりをつくり、区民の視点が遠のくものになるといえます。

(5) 事業部の中で行政評価システムを使い事務事業の民営化・解体の促進ねらう
 区当局は、行政評価システムのうち、事務事業評価を今年度試行し、平成15年度からの実施をめざしています。そして、そのシステムを事業部間の競争に利用しようとしています。
 日本能率協会の事務事業評価のねらいは、@「事務事業のトータルコスト(予算プラス人件費)の削減や抑制」を図るために、「ゼロベースによる定量的な削減目標を設定する」、A「すべての事務事業を総点検し、役割を果たし終えたものや環境に適合しなくなったものを毎年、継続的に見直し、改革へ結びつけたい」、B「まちの将来ビジョンを実現するための政策体系を描いて、その体系にそった政策、施策の優先順位をつけ、住民ニーズを踏まえた予算編成に変えていきたい」、C「現在の総合計画の政策、施策の達成状況をできる限り客観的に評価し、今後の政策、施策の重点を変えていきたい」、D「事務事業の現状をまず評価し、自治体としての課題、傾向を把握し、その結果から改革のコンセプトを考える契機として導入したい」としています。
 以上の内容は、一般論として、当然に行政が果たすべき課題です。
 しかし、なぜ事務事業評価の導入によらなければならないのか明確に説明されていません。他にも方法があるのではないでしょうか。
 現実には事務事業評価は、トータルコストの削減や抑制を図る目的で導入されているといえ、日本能率協会の事務事業評価を手本にしている千代田区もまさに、予算や人件費の削減と抑制を目的で導入しているといえます。
 また、事務事業評価は、財政削減を職員に強制する仕組みをもっています。今、平成15年度の予算編成が行われていますが、財政削減の手段として、事務事業評価が利用され、「外部委託ガイドライン」もないままに、事務事業の委託が進行しようとしています。
 このように、事務事業評価の導入は、事業部制とリンクして「行政効率化をめざすためのもの」となっています。
 本来、行政活動の事務事業評価のねらいは、予算削減を第一義の目標とするものではありません。事務事業評価は、効率という要請を含んでいますが、同時に必要な行政活動であって、効率かつ有効に成果をあげている行政活動にはそれに見合う評価が与えられるという仕組みもあります。必要であっても効率かつ有効に成果をあげていない行政活動を発見し、それに対する対策を行うための手段とすることこそが重要です。

(6) 教育分野は明確に事業部制になじまない
 区当局は、区民生活、保健・福祉、まちづくり、環境、教育分野について、事業部にするとしていますが、自治体の分野が民間組織形態のそのままを持ち込んだ「事業部制」になじむものではありません。特に教育分野は、行政委員会と同様に事業部制になじまないことは明らかです。品川区では、教育委員会について、議論の末に事業部からはずしたという経過があります。職場での議論を通じた判断が必要です。

(7) 任用関係の権限委譲は、公平な人事保障を欠き、情実人事の危険
 区当局は、昇任、昇給の合格者の決定を事業部長に権限委譲しようとしています。しかし、@区全体で公平な選考を確保すべきところが、権限委譲後は、業績評価の結果に基づき、事業部ごとに昇任選考・特別昇給の結果に格差が生ずることになること、A今のままの選考基準であれば事業部長等による情実人事の危険性が起こりうること、B人事任用制度関係は複雑で熟達するには年数がかかり人事任用制度に通じた人材確保には困難性が伴い、また実務者を各部に配置するとなると、区の方針と逆行し、非効率となること、C1000人体制の中で事業部間を3年から5年で異動することからみると、部によって昇任選考・特別昇給の結果に格差が生じることが予測されること、D事業部長に人事任用関係を委譲されると、職員団体との交渉が必要となりますが、各部で結果に格差がでてくることが予測されることなど、以上の理由から、任用関係の権限委譲は、行うべきではありません。

(8) 財政権限委譲で新規施策実施にばかり目を奪われる
 財政の一部権限が委譲されるようになると、各事業部とも内部努力といって予算を残して、次期の目玉事業をつくるようにしむけられていると、すでに実施している品川区でいわれています。つまり、事務事業評価の低い事業を切り捨てる結果となっています。
 また、いかに早く新規施策を実施するかにばかり目を奪われていて、足場が固まらないうちに事業が動き、現場が苦しくなることが予測されます。ただでさえ、トップの意向で新規施策が十分な検討もされないまま、職場におろされ、現場が四苦八苦している状況があります。これ以上、振り回されては、人員増なしでは現場がもたなくなっています。

(9) 随時異動、応援派遣のルールづくりを
 人事異動については、区職労の要求も踏まえて、抜本的に実施基準を改めることが必要です。各部でアンバランスがあっては問題です。
 随時異動、応援派遣の実施については、例外的な措置とし、実施規定(ルールづくり)をつくるべきです。また、随時異動と定期異動の関係を整理する必要があります。さらに、随時異動は、新たな事務事業の発生、年度途中の退職の発生に限るべきです。

(10) 職場での事業部制導入に対する討議が保障されていない
 職場で区の政策や組織などが十分検討され、職場民主主義が発揮されてこそ、組織の活性化は生まれます。トップダウン至上主義、職員無能論の立場で職員の能力を活用しようとしない姿勢は、まさに区政運営に与える影響及び区民サービスへの影響は大きいものがあります。

2、 事業部制導入に対する区職労の考え方

 1、で述べた問題点からみて、現時点で区組織に事業部制を導入することには反対します。
 「自治体に事業部制がなじむのかどうか」の基本的な議論を学識経験者なども入れて検討すべきです。そして、「区政政策実現及び区政運営のためになぜ、事業部制導入が必要なのか」を納得いくまで議論すべきです。
 組織の改編は、もっとよく議論し、職場の理解がなければうまく機能するはずがないことを肝に銘じるべきです。その一つの例として、行政評価制度や民間の組織形態を取り入れ自治体の組織を大きく変えている三重県庁ではトップダウンで職場の理解を得ることなく、係制が廃止され、フラット化によるグループ制が導入されました。その結果について、職員組合のアンケートでは、「機能している」「どちらかといえば機能している」14.0%、「あまり機能していない」「機能していない」50.8%と半数以上が否定的な回答をしていることを紹介しておきます。

3、 自治体の組織のあり方について
 「双方向で議論できる組織づくり」こそ必要

 今の組織がベストということは、当然にあり得ません。自治体にふさわしい組織は、住民ニーズに応じて、その利便性を追求したもので、区政運営をスムーズに行えるものにすべきです。特に住民にわかりやすい、利用しやすいことは最大の条件です。
 権限委譲問題つまり「分権化」の問題は、その組織において、トップと下部の調整が取れる範囲であれば、無理に分ける必要はありません。特にトップダウンの横行や「分権化」の行き過ぎは問題になります。
 千代田区くらいの比較的小さい組織では、事業部制による権限委譲を行うよりも、職場で何でも議論できる組織づくりの方が必要です。
 トップの意向を職場で議論し、「双方向で議論ができる組織づくり」こそ何よりも求められるのではないでしょうか。また職場で議論できるように情報の提供と環境づくり、管理職のリーダーシップが不可欠です。

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